話題:なれそめ(一)
南「……やだ。」
の「なんで。」
南「パクチー嫌いだから。」
の「でもにおいはそんなに……。」
南「チョコレート?」
の「ベイクだよ。」
南「……味は?」
の「それは一緒に食べようよ。」
南「……やだ……え、でもちょっと待って……においは確かに。」
の「でしょ? ベイクでしょ?」
南「うん。」
の「うん。はい、せーの。」
(もぐもぐ)
の「……チョコだね。」
南「え、いや、え!?」
の「え?」
南「……平気な人?」
の「全然。(パクチーの)味する?」
南「するよ!!!」
の「嘘でしょ。」
南「パクチーのにおいするよこれ!!!」
の「んー?」
南「ちょっと待って……(言葉にならない)」
の「(もぐもぐ)あー……。」
南「するでしょ。」
の「わかんない。」
南「うそ!?」
の「全然わかんない。」
南「するよ!」
の「うそー。」
南「飲み込んだときに、喉の奥から鼻にかけてぐわって。」
の「んー、こんなパクチーじゃ効かない。」
南「……私は二度と食べません。」
の「はいはい。じゃあ、おつまみイカフライ*2で口を直してください。」
南「……これさ、本当に全部イカの形なんだね。」
の「本当にイカだよこれ。」
南「一枚だけイカの形してるのかと思ってた。」
の「言ったじゃん。イカフライ。」
南「本当にガチイカの形してる。」
の「かわいい。」
南「かわいいの?」
の「このフォルム。」
南「へー。」
* * * * * * *
の「まずは、ここの二人のなれそめを。どうやって出会ったのかというのを。」
南「私覚えてますよ。初めて橋田さんと……まあ今鐸木さんですけど。会ったときのこと。」
の「お。」
南「その最初のシーンを覚えてる。」
の「なんだ。」
南「大学一年のとき出会ってるじゃないですか。で、私は大学の寮住まいだったじゃないですか。私二階に住んでたんだけど、一階の真下に住んでた子が、同じ新入生で。学部も一緒で。で、一緒に部活説明会的なヤツに行こうかってなって。」
の「うん。」
南「それに、その一階に住んでた子が別の子を連れて来て。三人で。で、「私演劇サークルに興味あるんだよね」ってその二人に言ったら、じゃあ一緒に行ってみようよってなって。某N大学の、演劇サークルに。」
の「NG大学の。」
南「NG大学の(笑) 某演劇サークルの教室に行ったんですよ。そこで説明受けてたら、入ってきたんですよね、別の子が。一人でとことこと。それが鐸木さんでしたね。」
の「おお。」
南「うちらは事前にもう一人来るって話を聞いてたんですよ、先輩たちから。『あ、そうなんですか、どんな子ですか?』って聞いたら、『可愛らしい子だったよ』って。で、扉が開いたら、鐸木さんですよ。」
の「お、おお?」
南「可愛らしい子だなって思いましたよ。」
の「どうも(苦笑)」
南「”見た目”はね。」
の「……ん? どゆこと?」
南「最初はね、なんか、」
の「(おつまみイカフライ)うめっ。」
南「うまいか。」
の「うん。」
南「そうか。鐸木さんはね、たぶん、第一印象は悪くないんですよ。」
の「第一印象は、悪くない(ぼりぼり)」
南「別に、第一印象で無愛想とか人見知りとか、思われないんですよ。」
の「あ、そうなの。」
南「逆になんか、話聞いてくれるし。乗ってくれるかはわからないけど。人見知りってほどでなくて、ちょっと慣れてないだけかなっていうくらいで。」
の「ふーん。」
南「で、顔もね。その頃ってすっぴんだったんですけど橋田さんは。常にファンデーションもしてない、眉毛も書いてないって状態だったんですけど。」
の「そうだった。」
南「本当、(会ったときの)角度すら覚えてんだよね。」
の「すげぇな。」
南「そのとき本当、可愛い子入って来たって思った。」
の「(ぼり)……。」
南「主役取られたって思った。」
の「……。」
南「可愛いから。」
の「……書きづれぇ!」*3
南「(笑) まあ、そこから色々、話したり仲良くなったり、していくと、なんか色々出てきましたけど。アクが。」
の「アクが!」
南「アクがね。味がね。」
の「私……そんなに覚えてねぇな。」
南「そういうところがアクなんだよ。」
の「南帆子が話してくれたその情景すら、全く思い出せないからね。」
南「でも話しかけたところは覚えてないんだよ、私も。ただ教室に入ってきたところだけ、なんか覚えてるの。」
の「……一番最初の南帆子の記憶ってなんだろ。」
南「覚えてる限りで最初の記憶とか、あります?」
の「なんだ……なんだろ……。」
(しばし逡巡)
の「一番最初に一緒にやった芝居って、何?」
南「カフェのヤツ。」
の「ああ! カフェのヤツか! カフェのワンシチュエーションみたいな。」
南「うん。メアド交換されたヤツ。」
の「メアド交換されたヤツ……!?」
南「顔も知らない相手と、鐸木さんはメールをしてました、それがきっかけで。」
の「そうだ……!! え、それを出してくる!?」
南「あのとき確か、私が演出してたんだよね。」
の「あ、そうだね。そもそもうちのサークルは、男子の方が多かった。」
南「大学生ってそうなのかな。私も高校演劇やってたけど、女子しかいなかった。」
の「だよね。私も、高校はやってないけど、中学時代は本当、女子だけの部活だったから。で、大学で入ってみたら、男子の方が多かったよね。うちらの代は。」
南「うん。」
の「覚えてる限り、女子はうちら合わせて四人いて。一人音響で。役者として出るって言ったのは、三人で。」
南「うん。」
の「男子が、(数える)八人……?」
南「なんかもうちょっといた。バイキンマンの話書いた先輩とかいた。」
の「いた! いたー!」
南「でしょ?」
の「うん! いたわ! アンパンマンのコントみたいな。」
南「そう、アンパンマンのコント書いた人がいて。」
の「まあ、男の方が多かったんだよね。」
南「多かった。倍かな。」
の「どうだったそのとき。記憶ある?」
南「あるけど。今思うと友達なくすなーって。それこそ、例の議員みたいな感じだったよ、私。」
の「例の議員(笑)そうかもしれない。」
南「『会話聞けっつってんだろボケーーーー!!』みたいな。」
二人「(爆笑)」
南「『会話届いてないっつってんだよこのハゲーーーー!!』みたいな。感じ。」
の「結構、男子にはアタリが強かったもんね。具体例は覚えてないが。」
南「覚えてないんかい。」
の「ただそのときから、私はたぶん、どちらかというと男子側の方だった気がする。」
南「そうだね。」
の「(南帆子が)怖いから(笑)」
南「結局、私も演出の仕方なんて分かってなかったから。分かってないのに、暴言かましてたから。っていう自覚は、今だからあるんですけど。」
の「なるほどね。なんか、普通に普段接しているときは良いんだけど。芝居の話になると、すごいアツくなるというか。『ボケーーーー!!』ってなるから。」
南「そうね(笑)」
の「なんでそんな『ボケーーーー!!』ってなるんだ怖っ、って。当時は。」
南「当時はね、なんていうんだろう……人間の沿線上に芝居があるって、思ってなかった。」
の「おお。いうて男子たちもさ、ガチで芝居しに来ましたって感じでもなかった。」
南「そうそう。彼女作るために入ったヤツもいたしね。」
の「いたしね。」
南「今思えば、逆に、そこを利用して、そういう人間を上手いこと転がして、上手いこと作れば良かったんですけど。出来なかったんだよね。」
の「なかなかね。」
南「気付いてなかった。」
の「で、結構強い感じで男子に演出をする南帆子を、私はあーあーって感じで見てた。まあ私自身は直接的には実害受けてなかったし。むしろ結構仲良かったもんね。」
南「仲良かった。」
の「それこそ南帆子んち行って飯食ったし、泊まりに行ったし。」
南「一回さ、うちに家出しに来たよね。家出してきて、2~3日うちにいた。」
の「まあ結構寝泊りはしてた。」
南「その当時の鐸木さんは、もう、本当”ぱなし族*4”だったんで。」
の「そうですね。」
南「超ぱなし族だったんで。本当、驚愕したのは、私の枕元に鐸木さんの靴下が置いてあったことですね。しかも脱いだ後の靴下。そっ……と。置いてあった。」
の「枕元に靴下を置いたという自覚はまあ、ないですよね。」
南「でしょうね! 漫画とかも結構貸し借りしてて、私の部屋で読んでたりもしたけど、一冊ごとに別々の場所に置いてあるんだもん。」
の「転々と。」
南「移動の軌跡がわかるように。」
の「一巻、二巻、三巻……って。」
南「なんだよコイツって思って。」
の「すまんね。」
南「まあ、そんな楽しい一年生の時代があって。」
の「まあ仲良くやってたんですよ。」
南「そうですね。」
の「仲良くやってたんですけどね。」
南「問題はその次の年ですよ。」
の「二年生ですよねえ……。」
* * * * * * *
なれそめ(二)へ続く