消化【花岡】
こんにちは。花岡です。
忘れた頃に鐸木さんからバトンが回って来まして、しかも抽象的で解釈し難いお題でして、念の為「食べ物のこと?」と聞いたら「何でもいい。解釈は任せる」とざっくり投げられましたので、とりあえず好きに書いてみようと思います。
物事を消化しようとすることが苦手である。いや、明確に言えば、嫌なことを消化することが苦手。
基本的に温厚という評価の高い私であり、それは自分でもそう思う。腹を立てたり誰かを憎んだり声を荒げて怒ったり、そういうことはあまりない。普段から物事に対する執着が薄いのかも知れない。何か良からぬことが起こっても「まあ仕方ない」とか「どうにかなる」とか「どうにでもなれ」とか、そんな気持ちで受け流すことが多い。
しかしやはり私も人間なので、どうしても気に掛かってしまうことや気に病んでしまうこと、嫌気が差すことも時たまある。
「嫌だな」「嫌いだな」「辛いな」「ムカつくな」そんな気持ちが、胃の辺りに引っかかってずいぶん長いこと居座ってしまう。
そうなることは稀であり、些細な出来事だったりする。しかし一度引っかかるとなかなか消化してくれないのだ。
しばらく忘れられていたのにふとしたきっかけで思い出してしまい、思い出せば胃の辺りの不快感も復活してしまう。やれやれ。
思うにこの消化不良を起こしてしまったものを完全に消すことは難しい。一旦は何かしらの発散方法で解消したとしても、何か澱のようなものは残ってしまう。その澱をむりやり吸収しようとすれば人間は悪くなる。
よって私なりの解釈になるが、一度残ってしまったこの澱はもう、自分なりに肥やしにしていくしかない。
自分をより良くするための肥料として上手く付き合い、向き合い、時折撫でて眺めてやると良い。
そうするといつしか『良い思い出』になっていることも多い。そうじゃない場合もあるが。
ここで、私の消化不良の体験談。
もう三、四年前になるが、バイト先で苦手な人がいた。彼女は私と同い年だったが、そのバイト内では私よりも一年ほどキャリアが長く先輩だった。彼女はよく私に仕事を押し付けた。自分の案件すら「あーめんどくさ」と判断したら私に尻拭いをさせた。
当初私は「ああきっと今忙しくて手が回らないんだろうな」くらいに思っていた(思いたかった、が正しいかも知れない)が、どうやらそうではなかった。私に仕事を押し付けて自分だけ決まった時間に弁当を食べたり煙草を吸いに行ったり勤務時間中にどこかに電話をかけに行ったり、そんなことが茶飯事だった。
私が彼女から押し付けられた仕事を躍起になって処理している最中、「あーすっきりしたー」と喫煙所から帰ってきた彼女を見たときには本当に刺してやろうかと思った。
しかしどうやらその切っ先は自分にも向いていたらしく、腹の内側から見えない針が何本も何十本も何百本もちくちくちくちくと内臓を刺した。
その日私は職場で吐いて早退した。
この事件は私から社員さんへの訴えにより少しは改善され、彼女が私に仕事を押し付けることはなくなった。
今思い返しても腹が立つし、嫌悪感とやり場のない悔しさや悲しみや殺意や何が何やらが分からないどす黒い粘着質なものが胃の辺りに滞留する。
この体験は私の中できっと一生、消化不良を起こし続ける。
恨みつらみは一生忘れないが、しかし彼女は馬鹿だった。
まず人に何かを押し付けるなら周りにバレないように手を回すと思うのだが、まああからさまな私への行為だったので、私の社員さんへの訴えはすぐに証明された。「なんで最近社員さん私のことばっかり注意するの?」と怪訝そうだったが、ここに来て確信した。あ、コイツ馬鹿だ。
よくクレームを起こした。私なら一度で終わらせる対応を何度も何度も確認させられ、最終的にアポイントを落として会社の利益にはならない(何なら損害を出すこともよくあった)。
簡単な九九も出来ず、発注数が分からずに私に確認させた。私は「5本のものが3セットですよ」と答えておいた。
会話が成立しない。電話口の言葉遣いが下手くそ。お客様に対してタメ口を使う。そしてまたクレーム。私にさせられなくなった尻拭いを自分でするが結局発注ミスを起こして二重クレームを引き起こす。
最終的に私にサプリの勧誘販売をしてきたので、さすがに笑った(これを皮切りに他の人にも勧誘をするようになり、彼女はバイト内で『ねずみ講女』と揶揄されるようになった)。
私はいつしか彼女を観察するようになっていた。
どうすればあんなに人を怒らせられるのか。何故あそこまで人から疎まれるのか。
美容サプリの勧誘をしてくるくせにメイクが汚く、肌も荒れ放題で髪もパサパサ。しかし水素水とピラティスにハマっており、無駄に女子力をアピールしてくる。
「私なら分かるから私がこの仕事する」と楽な役割を選んではミスを犯して「私にばかり仕事させて何なの!?」と逆ギレする。
今までの行動を見ていてもそうだ。つまりは行動が全てちぐはぐである。
まあ要するに、自分で自分のケツも拭けないようなヤツだったのだ。自分の言動行動に全て無責任であり、利己的で何の理屈も通っておらず、結果が伴わない。
あー、こういう人間は人間から嫌われるんだなぁ。人が離れていくんだなぁ。人から恨まれるんだなぁ。この人ここまでこのコミュニティから疎まれてどうする気なんだろうか。自分の立場を危うくして居づらくなるだけなのになぁ。
最終的に、彼女は「ここの人間とは馬が合わないんだよね」と言って退職した。その捨て台詞を聞いて私はただただ「いやここまで来るとこの図太さすげーわ」と感心させられた。
これ、いつか鐸木に脚本の種として使ってもらえないだろうか。きっと鐸木なら滑稽に昇華してくれる気がしてならない。
この事件の一部のエピソードだけでもいい。私(をモチーフにした役)が裏でげろげろし始めたら客席がクスクスと笑いに包まれるような、そんなものを作ってくれると思う。鐸木なら。
と言うわけで、そんな鐸木さんの新作が拝める公演がございます。
京央惨事本公演『テースターズ』。
是非お越し下さいませ。
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この集合住宅には住居の他に「談話室」というフリースペースがある。「住民みんな仲良く平和的に」がモットーの大家が考案し設置したこの部屋は、住人たちがしばしば集まって会話をしたり趣味をしたり仕事をしたり好きなことが出来るようになっている。
ご近所付き合いが薄く儚くなっていくこのご時世でそんなもの機能するのだろうか?と思いきや、このフリースペースは大いに活用され、おかげで住人たちは大変仲良しだ(なんて都合のいいシステムだ)
今日はここで何かの会合があるらしい。
201号室のアサクラが部屋に入ると、神妙な面持ちのカネシロがひとり座っていた。この集合住宅の大家である。どうしたんだろう? アサクラが首を傾げる前にカネシロはむんずとアサクラを捕まえやや強引に中央のテーブル(5人くらいがかけられるテーブルだ)につかせる。なんだなんだと思っているとカネシロがアサクラにひそひそと耳打ち。どうやら304号室のナカモトさんと201号室のホンダさんが不倫をしているらしい。
えーっ!とアサクラ。この平和的な集合住宅に不倫という二文字はとても似つかわしくないワードだった。
二人の会話は大いに盛り上がった。
ドアが開く音。
また誰か来たようだ。
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京央惨事 本公演
『テースターズ』
2019年3月22日(金)〜25日(月)
於・新宿眼科画廊 スペース地下
【脚本・演出】
鐸木のすり(京央惨事)
【出演】
伊藤 えりこ(Aripe)
加藤 ひろ海(Spaceらぼ。)
後藤 なつこ(Spaceらぼ。)
延原 奨磨
花岡 南帆子(京央惨事)
【タイムテーブル】
3月
22日(金)19:30-
23日(土)14:00-/19:00-
24日(日)14:00-/19:00-
25日(月)19:30-
・受付開場開始:各上演30分前
・上映時間70分予定
【チケット料金】
前売・当日 2,500円
チケット取扱い カルテットオンライン
https://www.quartet-online.net/ticket/ko3z201903
(2月4日(月)0時より発売開始)
【スタッフ】
舞台監督 向井犬太郎
当日運営 早川さとし
音響・照明・そのほか 京央惨事裏方部
宣伝美術 鐸木のすり
企画 京央惨事
協力 Aripe 笹塚Method 新宿眼科画廊 Spaceらぼ。(敬称略)
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チケット予約受付開始致しました。
皆様何卒何卒、宜しくお願い致します。
あと、こそっとコリッチさんの舞台芸術まつりにエントリーしております。
もし気が向いたらこちらから口コミ等お寄せ頂けますと幸いです。
https://stage.corich.jp/stage/98014
では鐸木さん、次は『シナプス』で。